現代人の健康志向が強まり、タバコの害が明らかになるにつれて禁煙運動も広がりをみせています。また受動喫煙も問題となり、喫煙場所もかなり限定されてまいりました。

 タバコが人体に及ぼす害については、よく知られているところです。がん、狭心症、心筋梗塞、脳卒中、脳梗塞、高血圧、糖尿病、骨粗鬆症など生活習慣病のほとんどにタバコが影響します。特に、がんについては下図のように喫煙による死亡危険度が、大変高くなるという研究結果が出ています。

毎日タバコを吸っていると癌で死亡する危険度は何倍になるか

 タバコはさまざまなガンの死亡危険度を高めます。とくに食道がん、喉頭がん、口腔がん、肺がんの死亡危険度はたいへん高くなります。

 また、妊婦や両親の喫煙による胎児及び子どもへの影響も懸念されるところです。妊婦が喫煙していれば胎児の発育は阻害され、低体重児出産の可能性が高くなります。受動喫煙であっても同様です。

タバコは生まれてくる赤ちゃんにも影響を与えます

タバコが胎児に影響を与えるメカニズム

タバコが胎児に影響を与えるメカニズム

  1. ニコチンの血管収縮作用のため母体から胎児へ流れる血液量が少なくなり、胎児に酸素と栄養が十分送られなくなる。
  2. タバコの煙に含まれる一酸化炭素が身体の中に入ると、血液中のヘモグロビンと結合して(一酸化炭素ヘモグロビン; Hb-CO)、ヘモグロビンが酸素を運ぶのを邪魔し、血液を低酸素状態にする。そのため、胎児も低酸素状態になってしまう。

 妊婦がタバコを吸うたびに、胎児はピクンと一瞬呼吸が止まり窒息状態になります。そのため、死産、早産、自然流産、奇形児や低体重児出産の可能性が高くなってしまうのです。妊婦自身が吸わなくても、家族や近しい人が吸っていて受動喫煙にさらされていれば、同じように危険性が増します。

 

ニコチンの為害作用

 歯科においても、タバコの害が強く出ることがあります。それは歯周病です。じつは、タバコは歯周病の最も重大な危険因子の一つとなっているのです。

 タバコに含まれるニコチンは、血管を収縮させる作用があります。歯肉から血が出やすい状態であっても出血が抑えられ、気がつかないうちに歯周病が進行してしまいます。また、歯肉に血液が流れにくくなる結果、栄養状態が悪くなり歯肉の抵抗力が低下します。

 さらに歯周病の治療を行っても、喫煙が継続されていると非常に治りにくいと言われています。ニコチンは歯根表面とよく結びつく性質があるために、歯根面に付着、浸透した有害物質を治療により取り除いても、すぐにニコチンが歯根面に結合してしまい、歯周病治療の効果があがらなくなるからです。

ニコチンの為害作用

家族の喫煙が子どもに及ぼす影響

 喫煙者の歯肉に特徴的なのは、メラニン色素の沈着による歯肉の黒変です。前述しました子どもの受動喫煙によっても歯肉の黒変は生じます。

 子どもとの接触時間が長い家族が家庭で喫煙すると、強い影響が現れるようです。

 歯科的な観点からも禁煙の必要性は十分にあるとご理解いただけると思います。私たちは、禁煙運動が今後さらに推進されることを願っています。