口の中には300種以上の微生物がいます。微生物はむし歯を作ったり、歯周病を起こしたりしますが、全身の病気にも関わっているといわれています。

 私たちは多くの微生物にさらされています。それらを絡め取って殺してくれる白血球や免疫による生体防御機構が、私たちを守っています。しかし免疫がうまく働かなかったり、糖尿病などになると白血球の働きが弱くなります。また老化や精神的覇気がなくなると免疫系の連係が不良になって病原性の低い細菌にも身体が負けてしまう事があります。老化で免疫防御機能が弱くなっていく事も事実です。特に細菌と戦う能力の低くなった人を、易感染性宿主といいます。

 細菌が直接的・間接的に関係する病気には、誤嚥性肺炎・敗血症・細菌性心内膜炎・心筋炎・動脈硬化・糖尿病・皮膚炎・腎炎・リウマチ性関節炎・骨粗鬆症などがありますが、細菌が原因となる歯周病は、呼吸器系疾患、心疾患、早産や低体重児出産との関連が研究により明らかになってきており、特に糖尿病では相互に悪化する要因になることがはっきりしてきています。

 肺炎は、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患と共に高齢者の直接の死因として多区の割合を占めています。高齢者の肺炎で注意が必要なのが誤嚥性肺炎です。これは、口の機能や衛生状態の悪化と関連があります。私たちが寝ている間にも唾液などを飲み込む嚥下(エンゲ)反射が起きています。通常胃へ向かうのですが、高齢者の嚥下反射は低下していて、気管支や肺に入り込んでしまう誤嚥(ゴエン)が起きる事があります。多くの細菌が肺へ流れ込んだり、食物や胃液が逆流して肺に入ると感染して重篤な肺炎となり命を奪われてしまう事もあります。高齢者の肺炎の予防に大切な事は脳血管障害などの疾患により寝たきりにならない事や口の中の原因菌を減らすことです。寝る前に口の中をきれいにすることは、重要なポイントといえます。

Q&A

妊娠したら歯科に行った方がいいですか?

 妊娠中は歯肉炎にかかりやすくなったり、噛み締めて歯や顎を痛めやすかったり、ご自身のお口のケアがやりづらくなり虫歯になることもあります。またご出産後、よりお忙しくなられたり、赤ちゃんに保護者の方からお口の菌がうつりやすくなります。ご体調との兼ね合いや時期によって避けたほうが良い処置もありますが、歯科医に相談して下さい。

高齢者の口をきれいにすると、どんな良い事が有りますか?

  • 発熱することが少なくなる可能性があります。
  • 口に由来する肺炎を起こす細菌が少なくなります。
  • 風邪をひきにくくなる可能性があります。
  • 歯を長持ちさせ、排膿などの炎症を軽減し口から食事を美味しく摂っていただく事につながります。
  • 口臭が少なくなり、社会性の回復になります。

命を狙う口の中のバイキン

[図4]

[図5]

細菌から体を守る プラークコントロール

お口の細菌が肺の病気に関係します。

[図6]

 お口から気管を通って肺に入りこんだ細菌が、肺炎を引きおこすことがあります。
 わたしたちの体は、食物を飲みこむときには気管にフタ(喉頭蓋)をし、気管や肺へ異物が入るのを防ぐ仕組みになっています。この反射が低下するお年寄りに、多く起こります。

お口の細菌が血管系の病気に関係します。

[図7]

 動脈硬化症や冠動脈疾患…その原因のひとつは、お口の中の細菌です。
 血液中に入りこんだ歯周病原菌が血管壁に感染すると、防御反応により作られたメディエーターが動脈壁の硬化を起します。また、歯周病原菌の作用で血小板が塊となり、心冠動脈につまることもあります。

お口の細菌が心臓の病気に関係します。

[図8]

 お口の中の細菌が血管を通って心臓の内膜に住み着き、炎症を起すことがあります。 心臓の弁に障害がある、人工弁を入れているなど、血液の流れがスムーズでない人に多く起こります。

お口の細菌が糖尿病に関係します。

[図9]

 お口の細菌が原因で作られた物質が、糖尿病に影響を与えます。 血液中に流れこんだお口の中の細菌はTNFαという物質を作ります。 このTNFαは、インシュリンが血糖中の糖の濃度をコントロールするはたらきを阻害します。

お口の細菌が低体重出産に関係します。

[図10]

 お口の細菌が原因で作られた物質が、低体重出産に影響を与えます。 歯周病原菌の成分である内毒素が免疫担当細胞を刺激し、プロスタグランディンやTNFαという物質を作り出します。これらの物質が低体重出産の原因のひとつとなるのです。

[図1]〜[図5] 命を狙う口の中のバイキン 奥田克爾 著 一世出版
[図6]〜[図10] 細菌から体を守るプラークコントロール 山田了 著 永末書店

メタボリックシンドローム

 メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪型肥満に合わせて、高血糖・ 脂質異常・高血圧などの生活習慣病の危険因子を併せ持った状態です。これらの危険因子を放置すると動脈硬化が進み、「脳卒中」「心筋梗塞」「糖尿病」などの生命にかかわる病気の発症する確率が高くなります。

 疫学調査の結果から糖尿病(高血糖)や肥満の人に歯周病が多く、それが重症になりやすいことがわかっています。

 内臓脂肪を減少させることが、病気を予防することにつながります。またさまざまな研究から、自分の歯でしっかり噛んでゆっくり食事することが肥満の予防につながることが明らかになっています。糖尿病患者に歯周病の治療と管理をすることにより、血糖値に改善がみられたとの報告もあり、糖尿病(高血糖)と歯周病には因果関係があるとのことです。

 メタボリックシンドロームの要件の内臓脂肪型肥満・高血糖・脂質異常・高血圧に深く関与しているのが食生活です。そしてバランスのとれた食生活をおくるためにはお口の健康が絶対的に必要となります。

内臓脂肪を減らす食生活

  •  よく噛んで食べる
  •  1日3食しっかり食べる
  •  間食は控えめに
  •  カロリーの高いお菓子は控える
  •  夜食はしない
  •  塩分は控えめに
  •  脂っこい食物を減らす
  •  水分補給はお茶や水で
  •  お酒はほどほどに

※よく噛んで食べること(一口30回)は今すぐできる肥満予防法です

 

内臓脂肪を減らす身体活動

  • 通勤時間に取り入れるウォーキング
  • 乗り物を使わないで行ける所を増やす
  • 湯上り、就寝前にストレッチ
  • テレビをみながら運動も効果的